『廊下の窓から外に何が見える?』
月子ちゃんに訊かれたぼくは、体を低くしたまま窓に近づき、そろりと外を覗き込む。
それから情報を得るべく右から左へと視線を巡らせた。
「…月子ちゃん、メガネかコンタクトした方が、良いんじゃないかな…」
『余計なお世話よ、いいからはやく』
「え、ええっと…中庭、かな…あ、ちょうど真下に像があるよ、二宮金次郎っぽいカンジの」
『…実習棟の方にまで行ったの。今日、あいつらが居ないといいけど…』
「え、月子ちゃん…?」
『…なんでもないわ。すぐ行く』
月子ちゃんはぼくの曖昧で適当な情報からぼくの現在地を推測できたらしく、すぐに来てくれるということになった。
月子ちゃんの頼もしい言葉に安堵しつつも、慌ててぼくは電話口に付け加える。
「つ、月子ちゃん! 外に出る時、カラースプレーするの忘れないでね、メガネも…!」
『…はぁ?』
う、電話の向こうのぼくの声が、明らかに苛立っている。
当然だ。
余計な手間ばかりかけて。
でもこれは、ぼくだって譲れないんだ。
「スプレーはクローゼットの中にいっぱい買い置きあるから! 髪色が隠れれば適当で良いから…! メガネと定期はカバンの中で…あ、月子ちゃん駅どっちかわかんないよね…」
それから電話越しに駅の場所や路線の説明をし、電話を切る。
最後月子ちゃんは心底面倒くさそうだったけれど、たぶん、大丈夫だろう。
…多分。
あとは、月子ちゃんが来てくれるまで、人に会わないようにすれば良い。
補講ってことは、全校生徒が居るわけじゃない。
もう終わったみたいだし、生徒達もぼちぼち帰路についているだろう。
漸くほっと一息吐き出したとき──
「……あれぇ、山田じゃん」
背後から声が、した。