「…あ、の…」
僅かに離れた場所で女の子の声がした。
そうだ、さっきからやかましい声で呼んでいる声。
「…大丈夫…ですか…? 体とか、頭、とか…」
なんだろう、その物言い。
確かに頭は痛いけれど、随分含んだ言い方をする。
きょろきょろと辺りを見回しても、その人影はなく、階段の影にでも隠れているようだ。
若干それが気に障ったものだから、ついこちらも棘を付けて返してしまう。
例え厚意で気遣いの言葉を向けられても、それに応える余裕が無いのだ。
「痛みはそれほどでもないのでお気遣いなく。どちらかと言えばあなたの声の方が頭に障る…わ…」
言葉を発しながら、違和感。
あれ? 今の、あたしの声だった?
ごほん、とひとつ咳払い。
それとほぼ同時に、暗闇に潜んでいた気配がゆっくりと階段を下りてきた。
僅かに身構えながら、その影を注視する。
カツンカツンとローファーの靴音を響かせながら、月明かりの下へとゆっくりと姿を現す。
ちょうどスポットライトの真下に、用意された舞台に降り立つように。
「あ、の…ぼく…」
そこに居たのは――
「……」
「どうして、こんなことになってるのか…」
先ほどまで耳障りだと思っていたその声は何よりも馴染みのある声で。
いやでもちょっとやっぱり違和感はあるんだけれど。
そんな声だったっけ、みたいな。
「…あた、し…?!」