「本当は、堀越恭子たちに目をつけられるのは…自分だった、て言ってた。それからなくなった月子ちゃんの席を、探してくれてたんだって…前、教えてくれたんだ」
「…そう、だったんだ…」

入学説明会の後、堀越恭子にメガネを壊されてからあたしの視界は悪いまま。
ひとの顔を覚えるのは苦手だった。
だからあの時の子だって、気付かずにいたんだ。

「だから、大丈夫」
「…そう」

胸が少しだけ、熱くなる。
そういえばバタバタしていてまだちゃんと、お礼が言えてない。
なんだかんだであたしも数日、学校を休んだりしていたから。

今日は、自分から。
話しかけてみよう。

「ああ、でもぼく、みんなと“はじめまして”からなんだよなぁ…!どうしよう、ドキドキする…!」
「一回は会ってるじゃない、平気よ」

「あんなの会った内に入らないよ…しかも印象最悪だし…月子ちゃん、ぼくが教室で誰にも話しかけてもらえなかったら、月子ちゃんは傍に居てね、一緒にお弁当食べようね」
「イヤよ、面倒くさい」

「えぇえ、月子ちゃん…!!」
「…わかったからすぐ泣くのやめなさいよ、男のくせに」

「…うぅ、はい…」
「…傍に、居るわよ」

この胸に感じたことがある。
言葉にすらできない想いを、あたし達は共有した。
痛みも弱さも心さえも。あたし達は共にした。

「これから先も、ずっと?」

あれからあたし達は一度も入れ替わっていない。
多分もう二度と、入れ替わることはないだろう。

「…これから先も、ずっと」

あたしのすべては、彼に持っていかれてしまったから。
そしてあたしも、彼の一番大事なものを、もらったから。

「ずっと、一緒」


ひとりじゃ越えられない夜も
背負った罪もいつかの罰も
ふたりなら、きっと。

世界の果てまで、ずっと。



End.