◇ ◆ ◇


「……あ…」

教室の前で扉に手をかけた瞬間、あたしは思わず立ち止まる。
隣りでまだ緊張した顔の陽太が、あたしを見下ろしながら首をかしげた。

そういえばすっかり忘れていたけれど。

「あたしの席、ないんだった…」

あたしが使っていた席は、陽太の席だ。
それはちゃんと返さなくちゃ。

「ああ、それなら…大丈夫だと、思うよ」

やけに自信ありげに陽太が笑う。
今度はあたしが首をかしげていると、扉にかけていたあたしの手に陽太が自分の手を重ねた。

あたしの右手の傷はもうすっかり綺麗に治っていて、陽太の右手首にはリストバンド。
包帯は、もう要らない。

「あのね、星野さん…入学式か何かで、月子ちゃんに庇ってもらったんだって…覚えてる?」
「入学式…?」

ああ、そういえば。
星野さんも、高等部からの外部編入生だ、確か。

…そうか。
あの時の子は…星野さんだったんだ。