なに、を…やっているの、一体。
昴流さんが石みたいにピシリと固まっている。
当然だ、あたしももはや何も言えない。
そしてそれは、陽太本人もだった。
ゆっくりと唇を離し、それから自分の口元を押さえてよろめいている。
昴流さんも呆然としながら、奪われた自分の唇を手の甲で拭った。
お互い顔が青い。
今までに見た中で一番ダメージを受けているようにも見えた。
「月子、ちゃ……ぼく、ちょっと、向こうで、休んでる…」
「あ、うん…」
約束、って。
キスのことだったんだ。
「……ふ」
あ、ダメだ。
本人たちに悪いから、堪えてたのに。
なるべくガマンしてたのに。
「ふは、あは…っ、 あはははははは」
だって、目の前でキスシーンなんて、はじめてみたから。
しかもこんな、ロマンのカケラもないキスを。
「つ、月子ちゃ…」
「……っ、お前なぁ…」
あ、ふたりとも怒ってる。当然か。
でも、仕方ない。
お腹の底から込み上げてきて、ガマンできなかったから。
涙が滲むほどこんな笑うなんて、本当に久しぶりだった。