裏庭に盛大に響き渡ったのは、居るはずのない陽太の声だった。

「……陽太…?!」
「ちょ、いま、何しようとしたの?!」

包帯をぐるぐる巻かれた彼が、ぜいぜいと息をしながらこっちに向かって走ってきている。
今はまだ、病院に居るはずなのに。

「なにやってるのよ…」
「だって月子ちゃんが、昴流さんに会うっていうから…っ ぼくも一緒に行くから退院まで待ってって言ったのに聞いてくれないし…っていうか月子ちゃん、髪切ったんだ!」

「それはこっちのセリフなんだけど」
「あ、うん、流石にだらだらと、伸ばし過ぎてたし…」

「そうね、あれは鬱陶しくてなかった」
「はは、そうだね、月子ちゃん、おそろいだね」

ふにゃりと情けなく笑いながら、そんなことを言う。
こっちも相変わらず、呑気だなと思った。

「で…?」

割って入ったのは、昴流さんだった。

しまったすっかり、忘れていた。

「あ、ああの…! もしかして月子ちゃんとの、約束の話ですか…?!」
「…なんで知ってんの」

「ああ、やっぱり…」
「ちょっと、なんの話なの?」

陽太がしまったと頭を抱えているけれど、全く話がわからない。

約束って、なんのことだろう?