「…ありがとうございました」

そう口にするのと同時に、涙が出そうになった。
あの日久しぶりに大泣きして以来、涙腺が脆くていけない。
必死に堪えながら、続ける。

「助けてくれて…ありがとうございました」

それだけがどうしても、言いたかった。

このひとに傷つけられたのも事実だ。
でもそれは、半分自業自得だってことに気付いていた。

このひとは多分。
あたしがちゃんと、イヤだって、止めてって言ってたら。
きっと止めてくれていた。そう思えた。

「……終わり?」
「…終わりです」

特にこれといった反応も返さず、昴流さんがガリガリと、口の中のキャンディーを噛み砕く。
それも止めた方がいいと言ったら、聞いてくれるだろうか。
でもそれは人の勝手だしお節介に過ぎないから、言わないでおいた。

「…それじゃあ」
「……俺からも、言っていい?」

退散しようと立ち上がった手を、とられる。
まっすぐ、その目はあたしを見つめていた。

「…ヤってないよ」
「……え」

「あの日、きみのこと。抱いてないよ」