そんな顔、しないで。
死のうとしたわけじゃない。
ただ。
「あたしなら、平気…だったのよ…本当に痛くなんか、なかった…」
守りたかっただけなんだ。
「……うん…」
月子ちゃんから降ってくる声が、唇で弾けて消える。
触れた指先も、体も。ぜんぶ、震えていた。
「…陽太に、会うまで…本当に…! だけど陽太が、痛いって、泣くから…痛いんだ、って…気付いてしまった…平気じゃないんだって…ぜんぜん、大丈夫なんかじゃ…なかったんだって…!」
ポタポタと頬に、何か温かいものが降ってくる。
殴られたせいで顔が腫れているのだろう、視界が狭い。
でも必死に目を凝らすと、ぐしゃぐしゃになった月子ちゃんの顔が見えた。
「……う、ぇ…」
月子ちゃんが、泣いている。
「うええぇぇ…」
ぎゅう、と月子ちゃんの小さな体がぼくの頭を抱く。
ぼくの顔のあちこちに、涙は降り続けた。
「月子、ちゃん…」
ぼくの目にも、口にも。涙と血の味が混じる。
それでもよかった。
ぼくは月子ちゃんから溢れ出るものすべてぼくが受け止めるって、決めてたから。
一滴だって、零したくなった。
血まみれになった右腕を、痛みを堪えてなんとか持ち上げる。
左手はもう感覚が麻痺して動かない。
それから月子ちゃんの頭の後ろに手を回し、その頭をそっと撫でた。
月子ちゃんが一層強くぼくを抱き、声を張り上げる。
子供みたいに声をあげて泣く月子ちゃんが、ただいとしかった。
月子ちゃんが泣き止むまで、この腕が動かなくなるまで。
ずっとこうしていたかった。