前も見ずに長い廊下をひたすら走る。
周りに気を配っている余裕などない。

とにかくはやくここから逃げなくては。
誰も知らない場所に行かなくては。

ぎゅう、と締め付ける胸の痛みに死んでしまいそうだった。

だけど、そうだ、この体は月子ちゃんのだから。
ぼくの痛みではきっと、折れたりなんかしないんだろう。

でも、ぼくは、痛い。
どうしようもなく、痛いんだ。

あがる息に嗚咽が混じる。
視界が歪んで足取りさえおぼつかない。

でも不思議と足は動く。
無我夢中で。
体のカンカクが、麻痺してしまいそうだ。

――ドン!

廊下のつきあたりを曲がろうとしたところで、誰かにぶつかってしまった。

驚きで一瞬顔を上げてしまい、相手の姿が視界に映ったけれど、涙と視力の悪さが相俟ってぐちゃぐちゃの視界だったので、相手の顔はまったくわからなかった。