「黙れって言ってんじゃん…!!」

振り下ろされる拳。
迫る痛みに目を閉じても、あたしは叫び続けた。

「――もう…やめてよぉ…!」

女の子の、声だった。

聞き覚えのある声。
この教室内にそんな人、居るわけないのに。

教室内の音が止む。
時が止まったかのように静まりかえる。

あたしの上に何かが覆いかぶさっていた。
温もりを感じた。
それから心臓の、鼓動を。

「なに、あんた…」

堀越恭子の声が、わずかに遠い。
覚悟していた痛みはあたしに届かなかった。

「どけよ…それともあんたも殴られたいわけ?」

堀越恭子があたしの上に覆いかぶさっていた女の子の胸倉を掴み、顔を寄せる。

彼女は…確か、星野さんだ。
いつだったかこの教室で、あたしに話しかけてきたひと。

涙を流しながら星野さんは、ふるふると首を振った。
だけどその目はまっすぐ、堀越恭子を見据えていた。

そしてその瞬間。

携帯の着信音が一斉に教室内に響きわたった。