――来てくれた。

「…は! ダレかと思ったら…お前かよ」
「もうひとりの主役登場じゃーん、ちと登場が派手過ぎじゃね?」

ゲラゲラと教室内に笑いが響いた。
ひかれるように教室内がざわつく。

ほとんどのクラスメイトは、彼の顔を知らない。初対面だ。

だけど桜塚たちのその様子に、陽太がもうひとりの“いじめられる役”だと気付いたのだろう。
息を呑む気配がこちらにまで聞こえた。

陽太がゆっくりと、こちらに近づいてくる。あたりの様子を伺いながら。
次第にその顔から笑みは消え、哀しさが滲むのがわかった。
状況を、理解したのだろう。

まっすぐこちらに歩み寄る陽太にあたしはふるふると首を振った。
来ちゃダメだということはお互いに、わかっていたはずだ。
来たら、どうなるのかも。

自分で呼んだのに、求めたのに。

本当に来てくれると思わなかった。
だけどこんな状況で陽太がここに現れても、この状況を打開できるようには思えなかった。
ならせめて。
彼だけでも逃げてくれれば良かったのに。
あたしのことなんか、見捨ててくれれば良かったのに。

――でも。

そんなこと、ぜったいに陽太はしないって。
あたしはもう、知っている。

知っていたんだ。