◇ ◆ ◇


「はい、後5分──」

目を覚まして一番に聞いた声は、全く聞き覚えの無い声。

そして視界に映った光景に、思わず絶句する。
呼吸すらも絶えた。

──どういうわけかぼくは今、学校に居る。
学校の教室の机に向かい、問題用紙を見つめている。
解答用紙の解答欄は既にすべて埋まっていた。

混乱する頭でなんとか現状を理解しようと努めるけれど、とても無理だった。

教室内にはシャープペンを走らせる音と、教師が見回りで歩き回る足音だけが響いている。
それからやけに耳につく時計の秒針。

シャープペンを握る手が震える。
ヘンな汗が滲み、解答用紙にぽたりと落ちた。

混乱して呼吸が上手くできない。
口の中の水分がすべて飛び、ひゅっ、と喉が枯れた音を出した。

いったい、どうして…なんで、よりにもよって、こんなタイミングで。

「──はい、ではここまで。解答用紙を後ろから回収して」

教壇に立った教師があげた声に、体が大きく揺れた。
静かだった教室内にざわざわと喧騒が湧き、ガタガタと机や椅子のぶつかる音が響く。
ぼくは一層かたくシャープペンを握り締めた。

「おい、何やってんだよ」

後ろからこずかれ解答用紙を突きつけられる。
それでもぼくは、振り返れない。

「…おい」

後ろの席の人の声に、苛立ちが滲む。
体が、震えた。

わかっている。
だけどムリ。
ムリなんだ。

「おい、山田──」

──ガタン!

それ以上ぼくはその場に居ることができず、震える体で勢い良く席を立ち上がると教室から一目散に逃げ出した。

わかることはひとつだけ。

ぼくはまた月子ちゃんに、なっていた。