「…なに笑ってんのよ…」
あたしの態度が気に喰わないのか、堀越恭子がかつてないくらいに歪んだ顔であたしを見下ろしている。
握った拳は怒りでぶるぶると震えていた。
「ふざけやがって…!」
「落ち着けって、恭子」
“あたし”からの反撃は、堀越恭子にとってよほど予想外だったのだろう。
その足をあたしに振り下ろそうとしていたけれど、近くに居た男子がそれを制する。
「お前、状況理解できてる?」
呆れたように言われ、ゆるりと視線を上げてあたりを見回す。
体を起こそうと床についた手に、上手く力が入らない。
「…教室…?」
そこは、教室だった。
2年B組、あたし達の。
「別にあんなアナウンスされたところで、こっちは痛くもかゆくもねーよ。学園内のことなら、大抵揉み消せる」
今まで黙っていた桜塚健太が、ゆっくりと口を開いた。
「ただ…俺たちに逆らうとどうなるかは…きっちり教えてやらねぇとなぁ…?」
教室のドアは締め切られていた。
机や椅子は無造作に端に寄せられている。
あたしはそのほぼ中央に、転がされていた。
あたしの周りには、堀越恭子たちといつもお馴染みの取り巻き達。
今度こそ逃がさないとばかりに囲っている。
教室の隅にはストーブが音をたてていた。
そして、その反対側の隅には。
「お前にも、こいつらにも」
クラスの生徒たちが、怯えるように固まっていた。
おそらくほぼ全員居るだろう。
みんながあたし達を見ていた。