◇ ◆ ◇

「マジ最悪…!」

ふと気がつくと、堀越恭子の叫ぶような声が聞こえた。

「けっきょくあの人、失敗してんじゃん…! しかもアッサリと逃がすからこんなことに…! だからケースケ達がさっさとヤっちゃえば良かったのに…!」
「マジカンベンだって、恭子だってなんだかんだ人にやらせてっから、こーなんだろ。まぁもう別にいいけど」

冷たい床の感触と、痛む左頬に顔を歪める。
床にうつ伏せになるように倒れこんでいた。

…そうか、あたし。気を失ってしまったんだ。

結局あの後あたしは逃げ切れず、放送室に乗り込んできた堀越恭子とその他のやつらに捕まってここまで連れてこられたんだ。
その時盛大に左頬を叩かれたせいで、一瞬意識が飛んでいた。
なんだかやたらと体が弱ってるみたいだった。
自ら放棄しようとした罰だろうか。

「おっと、お目覚めだね。アンタいー度胸だねぇ…おそれいるよ」

目を覚ましたあたしに、近くに居た男子生徒が声をかける。
よく堀越恭子や桜塚達というとりまきだ。確かこの人も同じクラス。

「んで、どうする? 恭子、健太」

その視線を追うとほぼ真正面に、“いじめっこ”のボスがお揃いで居た。
つい先ほど校内放送で“あたし”の口から名前の挙がった、いじめの首謀者。

堀越恭子と桜塚健太。

このふたりの名前しか出てこなかったのは、きっと“彼”が他の周りにいる連中の名前を単純に知らなかったからだろう。
本当、案外抜けてるというか、なんというか。

そんなことを思ったら少し笑えた。