母さんは一瞬わけがわからないといった表情を見せ、理解できないとでもいうように頭を振る。
もがく腕を兄さんが押さえ込んだ。
ぎゅっと。

「行け、陽太」
「…っ、うん…っ」

それから母さんに背を向ける。
涙はもう止まっていた。
哀しくないわけじゃないけれど、もっと大事なことがあったから。

自転車のスタンドを下ろし、跨る。
サドルの位置は直す必要もなくピッタリだった。

「…陽太!」

門の向こうで、兄さんが叫んだ。
ぼくは頭だけで振り返る。
もう左足はペダルを踏み込んでいた。

「誕生日…おめでとう」

ぼくは笑って頷き手を振った。

「いってきます」


生まれ変わる。
ぼくはぼくのままで、新しい自分に。