それは最低なことかもしれない。
家族が大事じゃないってわけじゃない。
ただまっすぐ、目の前にあるものを、守りたい。
大切だって思うものを、この手で。
「その代わり、今度はぼくも、一緒に背負う。この家に降りかかる誹謗や中傷や暴力を…もうぼく以外の人だけに、押し付けたりしない…もう逃げたりせず…償うよ……!」
ぼくは、変われた?
あの頃から少しでも。
そうだとしたら本当は一番に、日向兄さんに見てもらいたかった。
「…ちょっと待ってろ」
兄さんはそれだけ残して、さっき居た場所に踵を返す。
それから玄関の門の外からぼくを呼んだ。
ぼくはなんだろうと思いながら、駆け寄る。
「……日向が使っていたやつだ。高校入学祝いに、父さんに買ってもらった。物置にずっと入れっぱなしで…でも油も差したしチェーンやタイヤも交換したから、走れる」
そこには青い自転車があった。
少し塗装は剥げているけれど、そこまで使い古されたカンジはしない。
当たり前だ。
使い古される前に主人を亡くしたのだから。
「途中でほっぽり出したのは…何もできなかったのは、おれも同じだ」
兄さんが、少しだけ笑う。
「行ってこい」