「陽太…!?」
部屋を出た所で、自分の名を呼び止められる。
呼ばれた方に振り向くと、玄関の門の向こうに晃良兄さんが居た。
「晃良兄さん…っ、どうして…」
まさか平日のこんな時間に居るとは思わなかったので逆にこっちが驚いた。
玄関先に居た晃良兄さんは、いつものビシっとしたスーツじゃなくて、ジーンズとシャツという珍しいくらいにラフな格好だった。
しかも少し汚れているから余計に、別人かもと思ったほどだ。
「お前、体は大丈夫なのか…!」
ぼくの顔を見た途端、晃良兄さんが声を荒げる。
その様子にびっくりして、思わず足が竦んだ。
晃良兄さんがこんな大声を出すなんて、初めてだった。
怒られると本能的に悟ったぼくは、どんな顔をしていただろう。
晃良兄さんは大股で、ぐんぐん距離を縮めた。
「ずっと目を覚まさなくて…っ 心配、し…ッ」
すぐ目の前まできた晃良兄さんの、言葉の最後は上手く聞き取れなかった。
気がついた時には晃良兄さんの、腕の中に居たから。
きつく強く、抱き締められていたから。
「…にい、さ…」
母さんにも、勿論父さんにも。
こんな風に抱き締めてもらったこと、ない。
「あのまま…もう目を覚まさないかと…思った…!」
その声が、あまりにもか細くて。
ぼくの目からは知らず涙が零れた。