日向さんはゆっくりと微笑んだ。
それは春の日差しのようにやわらかくて、温かい笑みだった。
『これから先だってずっと、苦しいことも辛いことも、たくさんある。だけどその度ちゃんと、傷つくんだ。受け止めて、傷ついて、泣いて喚いて…そうしてひとは強くなっていく。そして同時に、やさしくなれる。ぼくはそれが、できなかった。だけどきみなら…きみ達ならきっと、できるよ』
どくんと大きく心臓が鳴った。
今ここにはない、あたしの心臓が。
あたしの意思を、受け入れようとしてくれている。
『きみ達はもうきっと、見知らぬ“誰か”は求めない。今度は誰かじゃなくて、きみが信じるひとの名を、呼べばいい』
“誰か”という途方も無い祈りは、やっぱりきっと、そこまで届かないのだろう。
誰にもきっと、届かなかったのだろう。
景色が、視界が、日向さんの姿が空に消えていく。
それともあたしの方が、消えているのだろうか。
『陽太に、伝えてくれる…?』
もう上手く声が出せないあたしは、代わりに大きく頷いた。
『17歳、おめでとう』