朔夜、弦の下には、双子の弟がいる。
小学3年生の、満(みつる)と望(のぞむ)。
育ち盛りの食べ盛り、我が家のムードメーカーだ。
そして、次女で末っ子の瑠名(るな)。
弟達はみんなかわいいし大切だけど、やはり瑠名は特別のように思えてしまう。
まだ5才で今年の春から幼稚園に通っているけれど、少し内向的で口数が少なくて人見知りで…未だ園でも馴染めていないのが目下の心配事だ。
父親の記憶も薄く、母親もほとんど家に居ない。
兄弟達は多い分寂しい思いは免れているものの、小さな体では抱えきれない思いがあるはずだ。
父母という存在が一番必要な時期にそれらを欠いているのだから。
それを言葉に、できないほどの。
だからあたしがその代わりになるって誓った。
お父さんの分も、お母さんの分も。
「弦、あたしもう出るから8時前に朔夜のこと起こしてあげてくれる?」
「うん、わかった。月子ちゃん、携帯持っていきなよ。今日みんな家に居るし」
「…そうね、そうする」
それから家族共用の携帯を受け取り、まだ眠っている瑠名の様子だけ覗く。
普段なら満も望も瑠名も起こしている時間だけど、休みの日は寝ていて良い我が家のルールだ。
そっとその小さな額を撫ぜ、もう一度弦に声をかけて家を出た。
補講は半日で終わる予定だったけれど、なんとなくそのことは、言えなかった。