『おはようございます。11月3日、木曜日です。今週はテスト強化週間で…きゃっ』

校内に響き渡る放送の途中で、盛大にドアを開ける音が響いた。
他ならぬそのドアを開けたのは、ぼくだ。

「ご、ごめんなさい、お仕事のジャマして…っ」
「な、なんですか、ここは放送委員以外立ち入り禁止で…」

「すいません、ちょっとだけ、貸してください…! お願いします、どうしても言わなきゃいけないことが、あるんです…!!」

こんなことをするのは勿論生まれて初めてだ。
マジメに委員の仕事をしているこの人には心底申し訳ないと思う。

だけど、今日じゃなければ…今じゃなければ、意味がない。
意味がないんだ。

困惑する放送委員のその人からアナウンスマイクを奪い、目の前に並ぶよくわからないおそらくコントロール用のつまみを最大まで上げる。
キィ…ン、と耳障りな音が響いた。
一瞬顔をしかめ、それでもマイクに向かって声を発した。

『ぼ…っ、あ、あたしは…2年B組の…山田、月子です…』

月子ちゃんの声が、マイクを通して校舎内いっぱいに響き渡る。
少しノイズが混じって聞きずらい。
仕方ないなという顔で、隣りに居た放送委員のおそらく先輩が、微調整してくれた。
感謝しつつ、マイクを握り直す。

手も足も心臓も声も、震えていた。