朔夜は長男であたしのひとつ下の弟。
定時制の高校に通っていて、昼間はほとんどバイトに時間を費やしている。
そしてそのほとんどを、家計に入れてくれている。

実際、父親が居なくても7人家族でなんとかやっていけているのは、朔夜のおかげだと言っても過言ではない。
お母さんも一生懸命働いてくれているけれど、兄弟はあたしを含めまだみんな未成年。
学費に食費に生活費。かかるお金は増えていくばかり。

お父さんが生きていた時からかなり切り詰めた生活だったのに、お父さんの死後、看護師のお母さんの収入だけではとても生活なんてしていけず、あたしが高校進学をやめて就職する気でいた時…自分が働くからと言ったのが、朔夜だった。

そして定時制の高校に進んだ朔夜は、朝から晩までバイトばかりに明け暮れるようになった。
それからあたし達はなんとなく会話が少なくなっていって。
時間もすれ違うばかりになった。

そういえば今日の朝、久々に声を聞いた気がする。

「朔夜くん、月子ちゃんが言ってもバイト減らさないし、お母さんから言ってもらうしかないかなぁ」
「…そうね…次あのふたりがいつ顔合わせられるのかが問題だけど」

「そうなんだよね。ふたり共もうちょっと家族の時間を大事にして欲しいよね」

ふたり台所に立つと、弦はこの手の話が多い。
面と向かっては言えないから。
ここでしか、言えないから。

その会話の向こうにたくさんの心配と感謝と罪悪感が押し込まれているから。

だから、言えないのだ。
…あたしも。