「……っ」
もはや本能的に身の危険を感じた。
体の方が思うよりはやく反応し、彼の視界から逃れようとしたその瞬間、長い腕が伸びてきて手首を掴まれる。
そのまま手首ごと、強くフェンスに押し付けられた。
ガシャン、と大きく鳴ったフェンスがまるで悲鳴みたいだった。
「逃げられるとさ、追いかけたくなるよね。まぁ逃がさないけど」
笑いながら昴流さんは、再びその視界にぼくを捕らえる。
見下ろすその瞳が、揺らぐ。
そこには月子ちゃんの姿が映っている。
この光景を、前もどこかで見たことがある気がした。
ぼくが、だろうか。それとも。
「思い出すなぁ…ちょうどさ、1週間ぐらい前だったっけ」
ぼくを見下ろしたまま、昴流さんが口を開く。
その長い金色の前髪が、ぼくにも触れそうなくらい、近かった。
熱が、体温が、上昇する。
どくどくと心臓が、悲鳴を上げていた。
破裂しそうなくらい。
「あの日は夕暮れだったね。赤い、空。段々と日は落ちて…夜の始まりに、俺はきみを抱いた」