薄暗い廊下を進んで、長い階段を上る。
月子ちゃんと初めて会った場所。
はじまりの場所に胸の内でさよならするような気持ちで一歩一歩踏みしめる。
あの日の自分に。

屋上の扉を開けると目の前には青く高い空が広がっていた。
じゃり、と砂を踏む音が小さく響く。
少しだけ風が強い。
フェンスがぎしぎしと鳴っていた。

「――来るんだねぇ、やっぱり」

屋上の隅の方から、声がした。
それは予想していた堀越恭子のものではなく、だけど聞き馴染んだ声。
声の方にゆっくりと顔を向ける。
風に翻る金色の髪。

「……昴流、さん…?」

フェンスに預けていた背を持ち上げ、こちらを射るような視線と、目が合う。

相変わらず獣みたいだ。
だけどその瞳に少しだけ、哀しい色が混じっているような気がした。

「まぁ、そうだよね、いっつもバカみたいに律儀に、来てたもんねぇ…月子チャンのコマンドにはさ、“逃げる”とか“助けを求める”とかそういういう選択肢は、ないわけ?」

一瞬何を言っているのかわからなかったけれど、ゲームの話みたいだった。

選択肢。
月子ちゃんの選ぶ選択は、いつもきっとひとつだけだった。

――逃げない。

だから、ぼくは。

「あり、ます…もうひとつだけ…」

ぼくは、戦う。