鏡の前でセーラー服のスカーフをきつく結ぶ。
慣れないそれにやっぱり少し手間取ったけれど、前よりは大分マシに結べていると思う。
それから両耳のあたりで髪をきつく結い、鏡の中の自分の姿を見つめた。
鏡の中に映るのは、月子ちゃん。
ぼくではない。
おそらくまだ月子ちゃんは、眠ったままだろう。
ぼくの体の内で。
だけど不思議と、月子ちゃんのこの体は昨日からどこか温かい気がした。
とくとくと鳴る心臓にそっと手をあててみる。
不謹慎ながら、昨日の夜のトイレやお風呂での葛藤が思い出された。
とてもとても大変だった。でもそれは今は、割愛しておこう。
若干の顔の熱を感じながら、もう一度鏡に向き直る。
そこには少しだけ情けない顔をした月子ちゃんが居た。
月子ちゃんは本当に、こんな風に笑ったり怒ったり泣いたり、しないのだろうか。
ぼくだからこんな風に、すぐに泣いたりくだらないことで笑ったりするのだろうか。
それは、違う気がした。
ぼくはもっと、月子ちゃんの泣いたり怒ったり笑ったりした顔が見たいと思う。
だけどそれはぼくの、身勝手な望みでしかないのだろう。
小さく苦笑いを落とし、立ち上がる。
「……いってきます」
無意識に小さく呟いたのと同時に、ふと気持ちが引き締まった気がした。
月子ちゃんの小さな小さな儀式がぼくのちっぽけな勇気を後押ししてくれているような気がした。