堪えきれず溢れた涙が、晃良兄さんの手にもぼたぼたと落ちた。
それにぎょっとしながら晃良兄さんが顔をあげ、こちらを見つめる。
「ど、どうし…痛かったのか?」
「…ち、ちがうんです、すみませ…」
慌てて涙を拭いながら顔を上げる。
困惑する晃良兄さんの顔なんて、やっぱり初めてだ。
「あの、参考までにで、構わないんですけど…」
「…なんだ」
ず、と鼻をすすりながら言ったぼくを、晃良兄さんがまっすぐ見上げる。
久しぶりにこんな近くで顔を見た。
生真面目な晃良兄さんのメガネのフレームが、少し下がっている。
ぼくは自分はずっと、日向兄さんにしか似てないと思ってた。
だけどこうして見ると、晃良兄さんと日向兄さんもどこか似ていて、それはつまりぼくだってきっと、晃良兄さんに似ているところがあるってこと。
「自転車が…あると、いいなって。あの、彼、最近やっと、乗れるようになったんです…! 新しいものじゃなくて、おさがりでいいから…だから、その…」
言って、途中で続かない言葉に思わず俯く。
自分の口以外からそれを言うのは、やっぱりなんとなく、卑怯な気がして。
相変わらずすぐ怖気ずくぼくの言葉を、晃良兄さんは汲み取ってくれた。
「…わかった」
小さく返ってきた言葉に、ひかれるように視線を上げる。
包帯越しに伝わる体温は、今ここに居るという証。
ここに、ひきとめてくれる。
繋がりを。
「ありがとう」