無意識にぼくは、右手の手首をぎゅっと握った。
そこには細くて冷たい手首があるだけだった。
月子ちゃんの右手に巻いてあった包帯は、やっぱり替えていないのか緩んだり汚れたりしている。
まるで“ぼく”の手首に巻いてある包帯と、はじめから同じ1本の包帯だったみたいによく似ていた。
晃良兄さんの視界にもそれが映ったのか、溜め息と共に車の中から長い手が伸びてきて、手をひかれる。
それから緩くなった包帯を、きつく結びなおしてくれた。
「…まぁ、いい。自分で考えるさ」
月子ちゃんに言われた言葉を思い出す。
“少なくともあなたがそうやって投げ出そうとする命を、守ろうとしているひとが居る。あなたが自分のことしか考えていない間に、自分のことよりもあなたのことを考えているひとが居る”
晃良兄さんはいつから、ぼくの手首の傷に気付いてくれていたんだろう。
いつから、ぼくのこと―
“あなたが何度死のうとしたってきっと、そのひとがあなたを死なせたりなんかしない。絶対に”
見ていてくれていたんだろう。
守ってくれていたんだろう。
ぼくが死のうとしてるって知りながら、いつも。
ぼくはとっくに、諦めていたのに。
過去も未来も父さんや母さんや晃良兄さんのこともぜんぶ。
投げ出そうとしていたのに。