「…そうだ…」

走り出すと思っていた車の運転席の窓が開き、晃良兄さんがぼくに視線を向ける。
ぼくはその視線に応えるように、身を屈めて顔を近づけた。

「はい…?」
「きみは…その、なにか…知らないか…?」

「…? なにが、ですか…?」

質問の意図が拾えず首を傾げるぼくに、晃良兄さんが少しだけ気恥ずかしそうに顔を背けた。
晃良兄さんのそんな顔を見るのは初めてだった。

一体どうしたのだろう。
いつも物事をはっきりと言う晃良兄さんが、珍しく言い難そうに口篭っている。

「明日…陽太の、誕生日なんだ…なにか…その…欲しがってたものとか…陽太から聞いてたり、しないかと思って…」
「……え…」

ぼくはその時、ものすごく間抜けな顔をしていたと思う。
あ、でも今は、月子ちゃんで。

でもそれよりも何よりも、今晃良兄さんの口から出てきた言葉にぼく自身がいろいろと衝撃を受けた。

すっかり忘れていた。
ここのところいろいろあり過ぎて。

明日はぼくの…鈴木陽太の17歳の誕生日だった。