一瞬のような数十分のような沈黙の後、晃良兄さんが“ぼく”の体を軽々と抱え上げた。
ひ弱なぼくはさほど脂肪も筋肉もついていない。
改めて情けなく恥ずかしかった。

それから晃良兄さんが、ぼくに向かって頭を下げた。

「迷惑をかけて、すまなかった」
「え、あ、いいえ…っ こちらこそ…」

なんともいえない申し訳ない気持ちで、ぼくは慌てて手を振る。

迷惑をかけているのは…ずっと、かけ続けていたのはぼくだ。
謝らなければいけないのはぼくのほうだ。


晃良兄さんが車の後頭部座席に“ぼく”の乗せ、ドアを閉める。
本当はぼくも一緒に行きたかったけれど、それは流石に憚られた。

玄関先で見送る為に出てきたぼくのすぐ後ろに朔夜くんが居たっていうのもあるけれど、何よりぼくは今、月子ちゃんの体を預かっているんだ。
ムリはさせられない。これ以上。

月子ちゃんの為にも、朔夜くんやご家族の為にも、今日はちゃんんと家で休むこと。
それが今の、最善の選択のはずだから。