歳の離れたふたりの兄は、兄というよりも“父親”に近かった。
父さんがほとんど家に居ないせいもあるだろう。
思い描くような“親子”らしい会話を、父さんとした記憶はない。
日向兄さんや晃良兄さんと話している時でさえ、内容は病院のことばかりだった。
顔を合わせるのは、あの冷たい食卓でのみ。
日向兄さんが死んでから、ぼくと父さんの間に会話が赦されることはなかった。
だけどそういえば必ずってほど、そこには晃良兄さんも居てくれた。
ずっとそこに、居てくれたんだ。
幼い頃、大きくて温かなその背に、おぶってもらった記憶がふと蘇る。
日向兄さんがいつもぼくの前を歩いて手をひいてくれていたその後ろで、晃良兄さんは。
いつもぼくを、見守ってくれていた。
日向兄さんと違って晃良兄さんは、あまり表情豊かなほうじゃない。
だからぼくは勝手に、怒られているような気になって、いつからかこわくてまともに顔を見れなくなった。
きっといつか呆れられて、愛想つかされて、見放されてしまう。
いくら兄弟だって、こんな情けなくて足手まといでしかない弟。
それは今かもしれない、明日かもしれない。
いやもう既に、晃良兄さんはぼくのことなんか、嫌いにきまっている。
ずっとそう、思っていたんだ。