◆ ◇ ◆


「…あ、晃良、さん…っ」
「…遅くなって申し訳なかった。…陽太は…?」

「あ、あの、中に…」

お昼過ぎ、まだなお目を覚まさない“ぼく”を、晃良兄さんが車で迎えに来てくれた。
月子ちゃんの部屋で眠る“ぼく”を見て、晃良兄さんが顔色を変える。

「…死んで、いるのか?」
「えっ、いえ、眠っているだけなんですけど…その…目を、覚まさなくて…」

…驚いた。
晃良兄さんの口から、そんな言葉が真っ先に飛び出したことに。
あの冷静で慎重な、晃良兄さんが。

「…そうか…なら、いい…」

そう言って晃良兄さんは、ゆっくりと“ぼく”に近づく。
床で眠る“ぼく”を覗き込むように膝をついて身を屈めて、それから少しの間を置いて“ぼく”の手首を手に取った。

脈でも計っているのだろうか。
そう思ったけど、晃良兄さんがとったその右手首には包帯が巻かれている。
新しい包帯には替えず、ずっと同じものをしていたので、少し汚いし擦り切れていた。

じっとそれを見つめる晃良兄さんの表情は、ぼくが立っている場所からはよく見えない。

ぼくはずっと、晃良兄さんが何を考えているのか、ぼくをどう思っているのかわからなかった。
月子ちゃんに言われるまで。
こんな風に、なるまで。

でもそれは当たり前だった。
ぼくはそれを知ろうともわかろうともしなかったのだから。