ぼくは末っ子で、家も裕福な方で、何不自由なく甘やかされて育ってきた。

医者の家系として、勉強や教養は必要最低限強いられてきたけれど、それも別に苦じゃなかった。
欲しいものはなんでも与えられた。

兄に手を引かれて、安全な道をいつも。
ふたりの後をいつもついて回っていた。
兄が先に進むその道には、危ないものなんてほとんどないと思ってたんだ。

あの学園で、桜塚達に出会うまでは。

ぼくがいじめに遭っているって気付いてくれたのも、学校まで乗り込んで、担任の教師と話してくれたのも、ぼくを探してくれたのも、助けてくれたのも…ぜんぶ、日向兄さんだ。

でもそれを、日向兄さんはどう思っていたんだろう。

長男としての、義務だろうか。
特にこんな、歳の離れた甘ったれた弟。

もしかしたら本当は、ぼくのおもりなんか嫌だったのかもしれない。
ぼくのことなんか、嫌いだったんじゃないのだろうか。

…でももうそれは、知ることはない。
日向兄さんに訊くことも確認することもできない。

日向兄さんはもういないのだから。