瑠名が生まれて1年後。
お父さんは休職し、入院生活になった。

あたしは気まずさから、お見舞いにも足が向かなくて。
ひとりでなんてとても行けず、必ず誰かと付き添って行くようになった。

お見舞いに行く度に、お父さんの薬は増えていた。
眠っている時間が、長くなっていた。

あたしはお父さんの顔を、直視できなくて。まともに会話もできなくて。

謝る機会を逃したまま、時間ばかりが残酷に過ぎていった。

ある日、朔夜とお父さんの病室に行った日だった。
朔夜が中学に入学して、新しい制服を見せに行ったんだ、ふたりで。

あたしは花瓶の水をとりかえに、席をたっていた。
戻ってくるとお父さんと朔夜の会話している声が、病室の外の廊下にまで聞こえてきた。
ドアがちゃんと閉まってなかったんだ。

あたしは思わず病室に入るのを躊躇ってしまって。自分の名前が聞こえた気がしたからつい。

会話が途切れたらでいいやとドアの所に隠れていた。
いつの間にか朔夜の声は、変声期も終えだいぶ男の子らしくなった気がする。
身長も力も、あっという間にあたしは追い越されていた。
そんな朔夜の声が、あたしの耳にも届いた。

『俺は…月子を“姉”だなんて思ったこと…1度もない』

ああ、また、あたしは。

間違えたんだ。

上手くできなかったんだ。