1度だけ、うちに遊びにきたお父さんの友達との会話が、耳に残っていた。

残念だったなぁ、って。

お父さんもお母さんも笑ってたから、それが冗談だって、ちゃんとわかっていた。

わかっていたけれど、でも。
耳にずっと、こびりついていた。
ずっと、ずっと。

『……言葉ってとても、難しいよね。言う側と受ける側で誤解が生まれることもある。相手に伝えたいことが上手く伝えられなくて、受け取ってもらえなくて…だけど一度言った言葉は、聞いた言葉は、取り消せない。なくならない。その事実を上手く自分で消化して、生きていくしかないんだ』

いつの間にかわたしの目からは、涙がぼたぼたと零れていた。
床に零れた涙が一瞬染みを作ったあと、消えてなくなる。

隣りの日向さんが、やさしくわたしの頭を撫でた。
それにひかれるように、涙はわたしの目から流れ続けた。

『わたし…お父さんとお母さんに、きらわれたくなくて…必死に、いい子になろうって、してた。勉強も、家事も手伝いも、いつも心の裏側では、嫌われたくなくて、捨てられたくなくて…そうやっていい子のフリをしていたの』
『良いことじゃない、なろうと思ってもなれない人も居るんだよ。大切にしたくても、それが上手くできない人も居る。きみは自分を守る道を選んだ。それはきっときみが考えていた以上に、困難で、辛い道だったはずだよ』