元凶っていう言葉はあまり好きじゃない。
それでも馴染みのある単語だなとは思う。きっと誰しもそういうものを抱え持っているのだろう。

特に“こっち”側の人間は。

「ま、他人事で見れば綺麗だとは思うけどね。はい、これ」
「…え…」

言いながら差し出したものを、彼はきょとんとした顔で見つめる。
あたしの手の中にある握りたてのおにぎりと、あたしの顔を交互に見つめながら、少し間抜けな顔で。

「昨日の夜から何も食べてないし…この後どうなるかはわからないけど、ひとまずはお疲れ様ってことで」
「え、ぼ、ぼくに…!? い、いいの…!?」

「そんな、おにぎりのひとつやふたつで大げさな…」
「だ、だってぼく、迷惑しかかけてないのに…」

一瞬だけ高揚した彼の顔が、またすぐに暗くなる。
差し出したおにぎりを受け取ろうとした彼の左手が寸でのところで空を切った。

それを見ながら思わずため息が漏れる。

本当、面倒な人だな。
苦手な部類だ。
普通に生活してたら絶対に関わりたくないタイプの人。

…でも。

「あなた自身にかけられた迷惑は、ひとつだって無いわよ。あなたのその卑屈な発言にうんざりはするけど」
「…ッ、ご、ごめん…」

あたしの言葉に益々俯く彼の手を、取る。
彼は一瞬びくりと大きく体を揺らし、すぐにその手を引っ込めようとしたけれど、許さなかった。
彼の手はとても大きく、冷たかった。

「…でも、あんなわけのわからない状況で、夜を越えたのがひとりじゃなかったのは、心強かったわ」