そっと両手を目の前でかざしてみる。
小さな手。
だけど擦り傷も絆創膏もない、きれいでまっさらな手だった。

あたしはいま、5歳。
まだ純粋で素直だった、わたし。

『ベッドでいいかな? どうぞ、座って。お菓子でもどう?』
『…ありがとう、ございます。でも、知らないひとにもらっちゃダメって、言われてるから』

言ったわたしに日向さんは、ゆっくりと目を細める。
まるでお父さんみたいだ。

『良いご両親だね。親の教育は、子供を見ればすぐわかる』
『…? きょういく…?』

『すてきな、お父さんとお母さんだねってこと』
『うん、わたし、お父さんもお母さんもだいすき。わたし将来は、お父さんみたいな、先生になりたいんだぁ』

物知りなお父さん。
国語の先生のお父さん。
やさしくて、少しドジで、おひとよしなの。

世界で一番、大好きなの。