部屋の中には先客が居た。
あたしでも彼でもない。
見たことがない人。
男の子だ。
あたしと同じくらいの歳だろうか。
ハンガーには見慣れた学ランがかかっている。
少しだけその横顔が、彼と似ている気がした。
その人はじっと机に向かって何かを書き綴っている。
あたしはその様子を一定の距離を空けたまま、ぼんやりと見つめていた。
コンコン、と。部屋の扉がノックされ、彼が顔を上げてドアの方に視線を向ける。片手で書いていたものをさりげなく隠しながら。
『日向、ごはんできたわよ』
『わかった、今いく』
ひなた…どこかで聞いた名前だなとぼんやり考える。
ああ、そうか…彼の、陽太の、お兄さん。
10年前に亡くなったはずの、お兄さんの名前だ。
そうするとこれは夢? それとも、過去?
なんにせよもうここはあたしにとって不都合な現実ではないんだ。