「…月子ちゃ」
「傷つけたのは…あたしなのよ」
月子ちゃんの口から突然出てきたそれが、なんのことを言っているのかすぐに理解できた。
ついさっき、話していた内容を、月子ちゃんは
「…聞いて、たの…」
少しずつ手の平の熱が奪われていく。
いつもは温かい月子ちゃんの手が、冷たくなっていく。
ぼくは急に、ぞっとした。
理由もわからず、こわくなった。
月子ちゃんは天井に視線を向けたまま、おそろしいくらいに力のない声で、続けた。
「あたし…医者に、なりたかった…お父さんの病気を、ずっと傍で見てきたから…勉強して、医者になって、お父さんの病気を、治して…あげたかった…あの時はまだ、子供だったけど…本気でちゃんと、そう思ってた…その為には、私立の良い中学にはいって、勉強したくて…だけど、あの日…お父さんに…反対されて…」
いつもはっきりと物事を言う月子ちゃんの凛とした声が、小さくふるえていた。
「月子、ちゃ…」
「かなしくて…くやしくて…あたし、お父さんに、ひどいこと…最低なことを、言った……」
もうやめてと無意識に思った。
だけど月子ちゃんは続ける。
ぼくの目からは涙が溢れた。
「生んでくれないほうが、良かった…って」