以前、帰り道の途中で月子ちゃんが話してくれたことがある。
お父さんのこと、大嫌いなまま、死んでしまったって。
何かあったんだろうなとは思った。
だけど部外者のぼくには、何も言えない。
言えるわけない。あの時も、今も。
ただその横顔を見つめるしかできない。
目を逸らすことも、できずに。
それから月子ちゃんのお母さんが零れた涙をなんでもないように払いながらぼくに向き直って笑った。
ふとあの時も月子ちゃんは実は泣いていたのだろうかと、そんなことを根拠もなく思った。
「お夕飯の準備、してくるわね。もう少しだけ月子に、ついててあげてもらえる?」
「あ、はい…っ」
「ありがとう、よろしくね」
言って立ち上がりながら、それからふと視線をぼくに向ける。
「…さっきのプロポーズの話、子供たちは知らないの。だからみんなにはナイショね、鈴木くん」
そう言って月子ちゃんのお母さんは、少しだけはにかんた。
それは月子ちゃんが時折落とす、小さな笑みと似ていた気がした。
