部屋の扉を静かに開けて中に入ると、彼はベッドにもたれかかりながら体は起こしているものの、うつらうつらと夢の中を彷徨っていた。

昨日眠りについたのも遅かった上に、こんな朝はやくに起こされたら仕方ないだろう。
あたしも慣れてるとはいえいつもは寝る時間がはやいので、流石に少し眠たい。

とはいえここでそのまま寝られても困るのはお互い様。
彼の隣りにそっと腰を落とし、その肩に手を置いて軽く揺さぶった。

「…ちょっと」
「うぇ、あ、月子ちゃ、むが」

「声出さないでってば。隣りで弟が寝てるの」
「ご、ごめん」

慌てて抑えた手の下で彼が申し訳無さそうに小さく謝り、それに息を吐きながら「こっち」と部屋の外に促す。
彼は大きな体を小さくしながら靴だけ持って、あたしの後に続いた。

それからさほど距離もない玄関まで無事辿り着き、一応外も確認しながらなんとかふたり外に出る。

外はまだ薄暗く肌寒く、やっと日の光が差し込み始めたばかりだった。
町も家も人もまだ活動を始めるには早い時間。

彼はここに来て漸くやっと緊張が解れたようで、背伸びをしながら空を仰いだ。

「うわぁ、ぼく、朝日なんて久しぶり…」
「そうなの? ひきこもりって朝日と共に眠るイメージだから、朝日はお友達なのかと思ってたわ」

「はは、月子ちゃんて容赦ないよね…ぼくはわりと健全なひきこもりで、夜眠って昼間は起きてるよ」

なによ健全なひきこもりって。
よく分からないところでポジティブな思考なんだから。