まるで少女に戻ったような、そんな口ぶりだった。
昔を懐かしんでいるだけでなく、心も戻っているのだろう。
薄暗い部屋にはいつの間にか月明かりが差し込んでいた。
いたずらげに見つめる視線に、しどろもどろと答える。
「え…っと、結婚してください、とかですか…?」
戸惑いながら言ったぼくの言葉に、またお母さんはふふ、と笑う。
その瞳がゆっくり動いて、カーテンの隙間から覗く窓の向こう、小さな月を見つめた。
その横顔がひどく儚げに見えた。
想いを、記憶を、大事な人を。悼んでいるのだろうか。
それとも今だけ。かえって、いるのだろうか。
「月が綺麗ですね、て。きっとこの先これ以上に、綺麗に見える月はない。君と居たらずっと、あの月は輝き続けるんだろう、って。鈴木くんはこの意味、わかる…?」
月がとても綺麗な理由。それとプロポーズが繋がる理由…。
「…わ、わからないです…」
「そうよねぇ、わからないわよね。私も最初なに言ってるのかわからなかったですもの。…これはね、夏目漱石の言葉。お父さん、大好きだったのよね、私はあまり詳しくなかったけど…でも、これがきっと、プロポーズなんだ、って。それだけはなぜか、わかったの」
