それから月子ちゃんのお母さんが、窓際に腰を下ろしながら明るく言った。
「そうだ、ちゃんと包帯かえて、あまりムリしちゃダメだからね」
「…は、はい、ぼくまで手当てしてもらって、すいません…」
「いいのよ、月子のこと、ありがとうね」
「いえ、あの…ぼくけっきょく、ほとんど役に立たなかったんですけど…」
「そんなわけないでしょう、ばかねぇ」
そう言って明るく笑う月子ちゃんのお母さんが、いつもの月子ちゃんと重なってみえて不思議だった。
不思議な気持ちでぼくは、その笑顔を見つめていた。
それからふと、月子ちゃんのお母さんがぼくを見つめる。
視線が合って驚いて、慌ててぼくは姿勢を正して向き直った。
「…この子の父親の話は、月子から聞いてる…?」
「あの、ちょっとだけ…先生だったんですよね…文学少年だった、て…」
「ふふ、そうなの。懐かしい…私はね、教え子だったの。先生と、生徒」
「え…えっ、うわぁ、すごい、ドラマみたいですね」
まるでマンガかドラマのような話にぼくは何も考えずはしゃいでしまったけれど、月子ちゃんのお母さんはそっと苦笑いを漏らす。
「ね。でも実際には、結婚してからもたくさん辛いことも苦しいこともあった…だけどね、そうした時いつでも、思い出す夜があるの」
ぼくはまだ子供で、わかってはいたけれどやっぱり子供で。
情けなくて恥ずかしい。
月子ちゃんのお母さんは笑って許してくれるけれど。
「……夜、ですか…?」
「プロポーズしてもらった日の夜のこと。できちゃった結婚で、お腹にはもう月子がいた。綺麗なまぁるい月だった…すごく明るい夜で、星の光が霞むくらい。その月を背に、お父さんがまっすぐ私を見て言った、プロポーズの言葉。ふふ、鈴木くん、なんだと思う?」
