もちろんあの食卓でとっていた。朝と夜、ほぼ毎日。
日向兄さんのふりをしながら、いつも必死に、味もわからないほど。
どんなものを食べていたっけ。そこに卵って、入っていなかったっけ…?
だいたい限界を超えると吐き出してしまっていたし、食べる時はいつもそれどころじゃなくてどんな料理が用意されていたのかをあまり覚えていない。
覚えていないけど。
そういえばアレルギーがでたことは一度もなかった。
今まで、一度も。
「卵アレルギーはね、一番さいしょ、赤ちゃんの頃が本当に大変なの。少しずつ少しずつ、食べれるものとダメなものを見極めて、程度によってお母さんがラインをひいてあげなくちゃいけないから。母乳のうちは、お母さんも除去食を徹底しなくちゃいけないしね。お母さんはきっと、あなたの為に頑張ったのね。今あなたが食べ物にそこまで気をつかっていないっていうのは、きっとそういうことだと思うわ。それでもアレルギーっていうのは時には命にもかかわるから、なるべく避けてほしいと思ってしまうのよね。たぶんあなたの卵アレルギーはほぼ改善しているんじゃないかしら。それを言わずにおいたのは、きっとお母さんの思いやりね」
月子ちゃんのお母さんの言葉に、「はぁ」と力なく相槌を打つ。
なんだか上手く思考が回らない。
だってあの食卓に“ぼく”は、鈴木陽太はもういないはずだから。
だから母さんが作る食事に、そんな気遣いあるはずがない。
この前だってそういえば、プリンが出てきたし。
でも、…でも。
それはぼくの、願望だろうか。
捨てたはずの、希望だろうか。
また涙が落ちそうになって、隠そうと必死に堪えるけれど、だけど月子ちゃんのお母さんは見てないフリをしてくれていたから。
1粒だけ零した涙を、夜に隠した。
