ひとりぼっちの勇者たち



次の瞬間あたしは彼の腕の中に抱かれて居た。

まるで夢の中にでも居るように、すべての出来事が遠巻きに見える。
だけど彼の腕の温もりは温かかった。

「もう、大丈夫だよ…」

彼がそう耳元で囁いた。
とても落ち着いた、優しい声音だった。
だからやっぱり夢でも見ているのかなと思った。

肩のあたりにポタポタと何か温かい感触。
錆びた鉄の匂いが鼻をつく。

つい先ほどまで体中を這っていた強烈な痛みは、今は種類の違う痛みにかわっていた。
だけど体の感覚はもうとっくに、正常には機能していないみたいだ。

「ぼくは…月子ちゃんが、生まれてきてくれて…よかった」

熱と痛みとで歪む視界には、血を吐きながら笑う彼が居る。
あたしの目には、彼の流した涙の跡。
だけど彼の目にも涙が流れていた。


あたしは、…あたしは。
生まれてきたく、なかった。

こんな世界ならいっそ、生まれる前に戻って、ぜんぶやり直したかった。

そしたら今度はきっと、なにひとつ間違えずに、生きていける気がした。