「は…、はは、く、うける…マジでそれ、言ってんのか?」

歪んだ視界に映る桜塚健太の顔が、更に歪む。
もう口も指も瞼さえも動かせない。

流れた涙はどっちのだろう。
またどうせ彼のかな、それとも。
あたしの、だったりするのかな。

「とうとう頭、イカれたか?」

どす黒い息を吐きながら、止まっていた桜塚健太の手が、喉元へと伸びてくる。
ごつごつとして大きな手。
彼とは違って、ひどく熱い気がする。
この体が熱いだけだろうか。

もう片方の手が、視界の端で再び振りかざされた。

「俺から、逃げられると思ってンのかよ、本気で」

解っていた。
だけど少し、期待していた。
どうしてだろう、今まで何度も、そうだったのに。

これで最後かもと思いながら、遊びは続く。
彼らが飽きるまで、ずっと。
そんなこともう十分、わかっていたはずなのに。

「なぁ…死んじまったお兄チャン、元気ぃ?」

左頬に拳がめり込む。
頭のどこかでガツンと音がした。ような気がした。

血が、口の中いっぱいに、溢れて漏れた。
それでも一番痛かったのは心臓だった。