腕を掴まれ、近くにあったベッドに投げ捨てられる。
死んでも扉の前から動くまいと思っていたけれど、彼らは特に扉の向こうには興味がないようで、ほっとした。

桜塚健太が馬乗りになって、血まみれの胸倉を掴んだ。
振りかざす拳。
死んだみたいに無抵抗の体。

きっと“彼”は今まで一度だって、抵抗したことがないんだろう。
指1本動かせない。

主人の命令をきかない体。
まぁあたしは本当の主人ではないんだから、当たり前なのかもしれないけれど。

「…もう…いいでしょう…」

血を吐きながら、なんとかそう、口にした。
喉元まで湧き上がった胃液で口の中がピリピリする。

拳がぴたりと眼前で止まった。
歪む視界には、桜塚健太が映っている。
その顔から笑みは消えていた。

こんな状況でしゃべりかけられるのが初めてなのか、物珍しげに見下ろしている。
あたしは振り絞る声で、続けた。

「10年、以上も…人生を、奪ったんだから…もう、十分でしょう…新しいオモチャなら、さっきの子を、あげるから…」