「つーか、さっき明らかにダレか居たよな、もしかして逃がしたの? お前が?」
「恭子たちのオモチャじゃねーの、いいのかよ健太」

ぎゅ、と。できる限りの力で扉の鍵を押さえる。
もうそれほどの力は、この体に残っていなかったけれど。

「いーよ別に。恭子たちもそろそろ戻ってくんだろ、あっちには別に興味ない」

目の前の桜塚健太の瞳には、しっかりとあたししか、鈴木陽太の姿しか映っていない。
どうしてそこまで彼に、こだわるんだろう。

「さんっざん人のこと無視しておいて、こんなとこで会うなんて、運命だなぁ、まるで」

桜塚健太が笑った顔のまま、その長い脚を振りかぶる。
やけにゆっくりとした動作に見えた。
だけど不思議と体はその先を予測したいたらしく、無意識に身構えているのがわかった。

瞬後、腹に彼の脚がめりこむ。
鈍い大きな音と共に。

「…ぐ…ぅ…!」
「なぁ、そう思うだろ…?」

続けて、2発、3発と。ほぼ同じ場所に蹴りこまれる。重く鈍く激しい音が、何度も何度も保健室内に響き渡った。

まるでサッカーボールを蹴っているよう。
彼はとても愉しそうに笑っている。
血を浴びながら、まるで子供みたいに。

それはそうだ。
彼にしたらただ、遊んでいるだけなのだから。