「…は、ダレかと思ったら…ひきこもりの陽太クンじゃん」

保健室のドアの鍵を後ろ手に押さえながら、3人の男達と向かい合う。
じりじりと距離を詰めるにつれて、一番最初にそれはそれは楽しそうに笑い出したのが、先頭に居た人物、桜塚健太だった。

いじめっこのリーダー。この学園の問題児たちのボス。

こうして明るい場所でまともに顔を見るのは初めてだ。
クラスメイトとはいえ、ほとんど教室には来ない。
堀越恭子といい、獲物を眼前に認識すると、なんて愉しそうな顔をするのだろう。
それはもう、人ではないみたいだった。

「うわ、マジだ」
「うっそ、昼間は学校に来られないんじゃなかったけ」

「やべー、こうして顔まともに見んの久しぶりなんですケド。いっつも夜だもんなぁ」
「なんだよ、昼間出歩けないなんて、ウソじゃん」

「はは、こうしてみると昔とは別人な」

体の芯から、冷えていく。
哀しいくらいにこの体は、本能に忠実だ。

心臓は鼓膜のすぐ隣りにあった。
体の感覚はまるで無く。
右手首だけがじくじくと痛んだ。

もし今この手に刃物があったとしても目の前の彼らではなく、きっとこの右手首に突き刺さるんだろう。