「……意味がわからないんだけど…」
「だ、だって、このままここに居るなんてムリだし…」
「自分の家に帰りなさいよ」
「ひ、一晩くらい帰らなくたって大丈夫だよ…! 朝までに部屋に戻れればいいし、それに…!!」
「……それに…?」
聞き返したあたしに彼は一瞬開きかけた口を噤み、それから相変わらず言いにくそうにおずおずと口を開いた。
「元に戻ったとき、体がどっちだか、わからないし……その、例えばそれぞれの家で目覚めちゃって、携帯がなくても、困るし…」
…呆れた。
確かに体が戻ったとして、中身と体どっちに依存するのかはナゾではあるけれど。
一番に心配するのが携帯なんて…彼は携帯が無いと死ぬのだろうか。
「だからなるべくは一緒に居た方がいいと思うし、それに女の子の体の扱いなんてわかんないよ…!!」
彼の訴えに心の底からどっと疲れが沸き起こり、もはや反感する気力もなかった。
一理あると言えば一理あるし、どうでもいいといえばどうでもいい。
とにかくあたしははやく家に帰りたい。
それだけだった。
「……わかった、いいわ…確かに目覚めた時ここでも路上でも他人の家でもイヤだし」
「ほ、本当…!? 良かった…!」
「その代わりあたしの朝は早いから。あたしの家ではあたしの言うこと絶対にきいてよ」
「わ、わかった…!」
──そんなわけで。
ひとまずは一緒にあたしの家に行くことになった。
帰り道、彼の体が自転車に乗れないという事実に打ちひしがれ、結局歩いて帰ることになったり、彼の弱音やネガティブ発言に神経をすり減らしながらもなんとか家まで辿り着き。
そうして漸く辿り着いたあたしの部屋で、ふたり一晩を明かしたのだ。