保健室の中には、ぼくの体と月子ちゃん、それから3人のいじめっこ達だけになった。
月子ちゃんの体と弱虫なぼくだけが、冷たい廊下に取り残されている。
ドアの鍵は、ぼく用だ。
だって中に居るひと達からしたら無意味だもの。
月子ちゃんはぼくだけを、逃がしてくれた。
守ってくれた。
ぼくの、心だけを。
「う、そ…ダメだよ、ムリだよ…!」
力の入らない手で、保健室のドアに手をかける。
弱々しく揺れるだけの冷たい扉は鉄の扉みたいに開かない。
「月子ちゃん…!」
いま“ぼく”を、桜塚たちから遠ざけてくれたっていうことは、ぼくの体じゃなくて、“ぼく”を逃がしてくれたっていうことは…それがどれだけ痛くて苦しいことか、知っているからでしょう?
だから、“ぼく”を守ってくれたんでしょう…?
「どうして…」
月子ちゃんを、守りたい気持ちは、あるのに。
いつだってぼくは、自分のことが一番で、自分が助かること、逃げることしか考えていない。
自分のことしか考えてないようなヤツだけど、それでも。
助けたいのに。
傷ついてほしくないのに。
「なんで、入れ替わっちゃうんだよ…!」
この体じゃ…月子ちゃんの、この体のままじゃ、月子ちゃんは守れない。
――絶対に。