「山田、だっけ。けっきょく捕まえてどーすんの」
「恭子がアソビたいだけだろ 俺らもヒマだからいーけど」

「さみー。さっさと終わしてどっか行こーぜ、俺酒のみてー」
「宏人は最近そればっかじゃねーか、誰が金出すと思ってんだよ」

「どうせ慶介んとこでやってるバーだろ? いーじゃん出世払いで」
「マジふざけんな、そろそろ財布呼び出せよ健太、他人の金で飲むから美味いんじゃん? 酒なんて」

「…そーだな」

ストーブの近くにあるパイプ椅子にドカリと腰掛ける音。
それから荷物を投げ出す音だったり、携帯の着信音だったりと、途端に室内が騒がしくなる。
このままこの喧騒に紛れて消えてしまえたら、どんなにいいだろう。

「大丈夫よ…」

月子ちゃんがぼくの背中を撫でながら、ひどく小さな声で呟いた。
カーテンの向こうの桜塚達には聞こえないくらい、静かな声で。

ぼくは月子ちゃんにかつがれたまま。
視界が奪われたままで、外の様子も月子ちゃんの表情も、何も見えない。

「あなたを心配する人たちのために、できるだけこの体は、守るから」

それって、どういう―――

その答えを考える間もなく、月子ちゃんが一歩を踏み出す。
バサッ、と布の翻る音。
室内にあった音が一瞬途切れた。

見えなくても、わかる。
今ぼく達が、桜塚たちの視線に、晒されているってことぐらい。